テキストサイズ

Memory of Night

第11章 罠


 周りで息を呑む気配がした。

 その勢いのまま宵は一度学生鞄を大きく振りまわしてみせる。

 それが攻撃に見えたらしい。男達が怯み、一瞬だけ動きが止まる。

 その隙に全力で駆け出した。


「……っ逃がすな追え!」


 鞄を振りまわしたのは単なる威嚇。体格差のある男達を6人相手にまともにやり合ったって勝ち目はない。

 突破口ができさえすれば良かった。

 このまま病院まで走るつもりだったのに、脇に抱え直した鞄からあるものが飛び出すのが見えた。


「あ……」


 ――蝶の形をした、赤い髪飾り。

 祭の時に晃に貰ったものだ。

 鞄の中にずっと入れっぱなしだったことを思い出す。

 そんなもの、無視してしまえば良かった。こんな状況で。

 だが、宵の目は無意識にその髪飾りを追っていた。地面に転がるそれに、とっさに手を伸ばす。

 走る速度が緩む。

 その選択が命取りだった。


「……っ……」


 大きな手に肩を掴まれ、頬を殴られた。

 体が湿ったコンクリートに叩きつけられる。

 その衝撃と痛みに息が詰まる。

 唇についた血を腕で拭い顔を上げると、目の前には金髪男が立っていた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ