Memory of Night
第11章 罠
今さら一人や二人増えても何も変わらない。ただ金という見返りがあるかないかの違いだけだ。
宵は目を閉じた。薬のせいなのか、呼吸がしづらい。
男に唇を塞がれた体勢がひどく息苦しかった。
そうすると、ふいに頭の裏側で声が響いた。痛みと苦しさに朦朧とする意識の中で、声の主を手繰り寄せる。
――でも嫌なんだろ? 他人に体をベタベタ触られるの。……なのに、セックスは好きなの? そんなわけ……ないだろ?
いたわるようにかけられた言葉。甘いテノールの声。真摯に自分を見つめる、茶色い瞳。
ああ、と思う。晃だ。思い出してしまったその言葉に、さっきまでの思考を揺さぶられる。
宵は左手を軽く握った。左半身はまだほとんど薬の影響を受けていないらしく、微かなけだるさを伴っている程度。
小柄な男の手が、学生ズボンのベルトにかかった。ベルトを緩め、下肢に手を伸ばそうとする。
宵は最後の力を振り絞り、左手で男の髪を掴んだ。ひっつかみ、ありったけの力で湿ったコンクリートに叩きつける。
「……がぁっ!?」