Memory of Night
第11章 罠
その反撃は男にとって余程予想外だったらしい。なすすべもないまま無様に転がった。
半秒遅れて、悲鳴があがる。
痛みに顔を歪めて自分を見上げてくる男を、宵も睨み返した。
「気安く……触んな」
酷く掠れた声だったが、それが余計に男の恐怖を煽ったらしい。小柄な男は喉を引きつらせた。
男の髪を掴む手にさらに力を込め、喉の奥から声を絞り出す。
「もう……終わったんだよ。好きでこんなことしてたわけじゃねぇよ。もう……」
男が、宵の手を振りほどく。コンクリートにこすりつけられて擦り切れた頬を片手で抑えて飛び退いた。
「なん、だよ。まだ動けるんじゃねーか……っ」
小柄な男が金髪男に助けを求める。
金髪は宵に歩み寄り、しゃがんで視線を合わせてきた。
乱れた髪の隙間から、宵はひたすら艶やかな金髪を睨みつけるだけ。
金髪の右手が伸びた。
見せつけるようにゆっくりと近づいてきた指は、やがて宵の首に絡みつく。
男の唇が、ニヤリと笑んだ。
宵は左手でとっさに男の手を掴むが、指先が震えるばかりで思うように力が入らなかった。