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Memory of Night

第12章 吐露


 晃はそこで、胸に自分の右手を当てた。

 茶色の瞳が、憂いを含んで細められる。


「――宵は? ここに溜め込んであるもの、一体いつになったら吐き出せるんだ?」


 志穂に言えなかったこと。誰にも吐き出せなかった弱音や本音。


「俺はあの人とは違うんだよ」


 晃は先ほどの言葉を、もう一度繰り返した。


「あの人ほど脆くない。宵。俺になら、弱音も愚痴もなんでも言っていいんだ。一人じゃどうにもならない時はどうにもならなくなる前に頼れ。寂しくなったら甘えろ。ずっと……そばにいるから」


 どの言葉が引き金になったのかはわからない。

 ただ、晃から流れ込んでくる言葉のひとつひとつが、宵の胸を打った。

 晃は、まるでニンゲンを警戒している野良猫をあやすように、宵の頭を撫でた。限りなく優しい仕草で、何度も何度もその行為を繰り返す。


「う……」


 もう我慢できなかった。

 噛みしめていた唇の隙間から、嗚咽が零れる。

 頭に置かれた手の動きが止まった。


「いっぱい泣いていいよ」


 馬鹿みたいだと思う。十七にもなって、そんな許可を誰かからもらうなんて。

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