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Memory of Night

第13章 吉報


 宵は病室の前で立ち止まり、軽く二回ノックした。

 志穂はまだしゃべることができないはずだから、返事が返ってくることもない。

 それを考慮しわずかな時間を置いて、両手が塞がっている宵のために看護婦がドアを開けてくれる。


「私はここにいるから、行っておいで」


 笑顔で促され、一歩部屋に足を踏み入れる。

 ベッドの上では、ドアにしきりに視線を向けて志穂が横たわっていた。

 いつもの、宵が見舞いに来た時のような嬉しそうな笑顔じゃない。

 志穂の顔からは多少の衰弱が見られた。

 点滴だらけの体は相変わらずだし、首には新たに包帯が巻かれていた。

 そんな状態にもかかわらず、宵の姿を認めると無理にでも体を起こそうとする。


「……寝てろって」


 いつもの癖で、ついぶっきらぼうな声が出てしまう。

 そして普段なら志穂は宵のそんな言葉に従うのに、今日は従わなかった。

 強引に体を起こし、ベッドの前に立つ宵をじっと見つめた。その瞳の必死さから、言葉はなくても志穂が自分の身を案じているのはわかった。


「俺は大丈夫。……心配かけてごめん」

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