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Memory of Night

第13章 吉報


「なんで……」


 髪飾りを見つめたまま、呆然とつぶやいてしまう。

 不良達に襲われた時に落としてしまったそれ。

 鞄から飛び出したそれを、あの時結局拾うことはできなかった。

 裏通りに置き去りにされたままのはずのその髪飾りを、なぜ晃が持っているのか。


「綺麗な髪飾りねー。でもここ取れてる。……これじゃ使えないね」


 残念そうな顔で指摘され、宵が覗きこむ。蝶を形作った髪飾りは羽の部分が取れてしまっていた。

 きっと、鞄から落とした衝撃で欠けてしまったのだろう。


「そうだな」


 頷きはしたものの、どうせもう髪飾りをつける機会なんて、自分にはない。

 それでもこの髪飾りを邪険にできないのは、祭が終わっても捨てずに持っていてほしいと晃に望まれたからで。

 宵は明の手から髪飾りを受け取った。


「あと伝言も一緒に預かってるんだ」

「晃から?」

「うん」


 明が、クスリと笑う。

 たった一言耳打ちされたそれは、実に晃らしい内容だった。人をからかうような挑発するような。


「また何かの罰ゲーム?」

「知らねー」


 素知らぬ顔でそう答えはしたものの、頬がわずかに熱くなる。

 今の宵には晃からの伝言は罰ゲームなどではなく、たとえば、もっと甘美な誘惑のようだった。

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