Memory of Night
第14章 聖夜
片手が使えないだけで、随分と不自由だ。綺麗に畳まれたタオルケットを苦労して広げ膝に掛け終えると、ふいにノックの音が聞こえた。
短く返答すると、ドアが開いて母が顔を見せる。
「晃。それじゃ私病院戻るけど……一人で大丈夫?」
「そう言えば仕事だっけ?」
「……ええ、今週は遅番だから。帰りは明日の昼前くらいになるかも」
申し訳なさそうな顔でそう説明する母親に、晃は笑顔を作る。
「わかった。心配しなくて平気だよ。風呂は済ませたし、もう腕もほとんど治ってるし」
「でもまだ固定しときなさい。骨がちゃんとくっつくまで油断はできないんだから。あ、夕飯はテーブルの上だからレンジで温めて食べてね。じゃあ行ってくるね」
最後の方はほとんど早口言葉みたいだった。
言いながら時計を確認し、ドアを閉めて慌ただしく階段を下りていく。
不良達との喧嘩で左腕を痛めてから、母が家にいる時間が増えた気がする。
感謝はするけれど、そんなに忙しいのなら仕事の合間を縫ってまでわざわざ帰ってこなくたっていいのに、とも思ってしまう。
母も大概職業病なのかもしれない。