Memory of Night
第16章 終章
「――雪だ」
上空をひらひらと粉雪が舞っていた。
「本当だ」
晃も雪を見上げてつぶやく。
「積もらないうちに行こう」
手は自然に繋いだまま、白い道を歩く。
二人の足跡が、綺麗に並んで残されていく。
神社を徐々に離れ、等間隔に立つ木々の中を歩いている時、唐突に宵が口を開いた。
「俺、前は独りでもどうにかなると思ってた。どんなにみっともない生き方だろうが、ギリギリの生活だろうが、生きてくくらいできるだろうって。だけど――」
そこでつかの間宵の言葉が途切れる。
同時に立ち止まり、晃の手を握っていた手を離した。
「もう無理みたいだな」
離れていく体温が名残惜しい。無意識にそれを追おうとした晃の頬に、今度はその手が伸びる。
宵は両手で晃の頬を包みこんだ。
続いて柔らかな唇が、ゆっくりと晃の唇を包む。
宵からのキスはずいぶんと珍しく、久しぶりな気がする。
驚いて目をしばたたかせる晃に花みたいに笑いかけながら、いつかベッドの上で聞いた、柔らかな声色で囁いた。
「好きだよ。俺もずっと……一緒にいたい」
end