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Memory of Night

第5章 玩具


「宵。目を閉じて口開いて? 飲ませてやるから」


 そう言うと、晃は缶を開け中身を自分の口に含んだ。

 宵の顎を指先でつまみ、そっと上向かせる。


「……これも、罰?」

 ぼそりとつぶやいた宵に、晃が動きを止める。

 宵は言われた通り、目を閉じて薄く唇を開いた。だがそうして待っていても、晃の唇が触れることはなかった。

 晃の手が顎から離れ、宵がまぶたを開ける。

 晃は口に含んでいた物を自分で飲みほし、缶を宵の手に持たせた。


「……ごめん」


 ふいに、晃が言った。


「さっきはやりすぎた。随分、手荒な扱いをしてしまって……」


 申し訳なさそうに、晃が瞳を閉じる。その口ぶりは今までとは違い真剣そうだった。

 宵は黙って持たされた缶を見つめているだけで、晃の顔を見ようとはしない。

 晃は宵の横顔を見つめた。

 わずかに寝乱れた漆黒の髪。灰色の瞳を縁取る睫毛は長く、薄暗い中でもはっきりわかる程に頬に陰影を落としていた。

 通った鼻筋。うっすらと赤い唇。

 何度も使った形容だけど、やっぱり綺麗だと思った。

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