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Memory of Night

第5章 玩具


 そんな宵を抱いてみたいという好奇心。そして、そこから生まれた独占欲。

 本当にそれだけだろうか。鎌首をもたげた疑問に、晃は気付かないフリをした。


「――宵」


 それは喩えるなら、衝動のようなものだった。

 晃は名前を呼んで、宵の体をそっと抱きしめた。

 突然の行為に、宵は体を強張らせて身をすくめる。晃はその体勢のまま、どこか諦めたように目を閉じ、言った。


「宵。……もう俺の相手しなくていいや」

「え?」

「今日の分の金は、始業式の日に渡す。残りは悪いけど、また自分で稼いで?」

「……人形遊びは、もう飽きたってわけね」

 宵はどこか皮肉めいた口調で言った。

 そうして晃の手を掴み、自分の体から引き剥がす。


「もう、俺に用ねぇんだろ? だったら早く帰れ! いつまでもべたべたくっついてられんの、やなんだよ」


 宵が晃に、鋭い視線を向けて言う。


「……それもそうだな」


 晃は微かに口元を歪めて笑った。それはどこか寂しげな笑みだった。

 なぜそんな顔をするのだろう。


「一人じゃ、歩くの大変だろ? 君のクラスの担任に頼んでおいたから、もう少ししたら来ると思うよ。多分車で送ってもらえる」

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