雪原に咲く椿
第1章 邂逅ーツナガリー
「……いつの間にか寝てたのか」
どうりで寒いはずだ。
窓の外は雪。
最果ての地の冬は凍てつくような寒さで、果てしなく雪原が広がっている。一面の雪景色は壮大で美しいと思わせるものの、人を遠ざける。ゆえに、冬の最果ての地へ訪れる物好きはいない。
春先にでもなれば、旅人が立ち寄ったり音楽を奏でに歌姫一行が訪れ賑やかなのだが。
ベッドにあるブランケットを無造作に掴み、身体を包み込む。燃料である灯花(とうか)を無駄遣いにはできない。女神の花である椿を結晶化させたもので、冬場は特に欠かせない生活必需品である。
遠く、懐かしい夢をみた。
夢は鮮明で、今も色褪せることはないのに、それでも零れ落ちてしまう、夢。
「……名前が思い出せない」
何故だろう、姿は思い出せるのに。