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まだ見ぬ世界へ

第10章 想いを紡ぐ








今年も綺麗な桜があちこちで咲いている。

俺はゆっくりと石造りの階段を登ると少しずつ綺麗な桜と、その近くに立っている人の姿が見える。

「カズ」

初めて出会った時は、名前も知らなかった。

「智」

初めて出会った時と同じように俺の名前を呼ぶ。


ここで出会った時は子どもだったけど、俺は大人になって教師になった。

そしてカズは高校を卒業し、大学生になった。


「ごめん、遅くなって」

「ううん。俺も今、来たところだから」

2人並んで桜の木を見上げる。

「今年も綺麗に咲いたね」

去年は1人で見た桜も綺麗だったけど、今年は一段と綺麗な気がした。

「うん、とっても綺麗……ハルも見てるかな?」

「きっと、見てるよ」

俺たちはしゃがみ込み、2人で埋めた首輪がある場所を撫でると、目を瞑り手を合わせた。

「待たせてゴメンね」

俺は立ち上がるとカズに手を差し出した。

「カズ、ハルも……ずっと俺を待ってくれてたんだろ?」

「……うん」

俺の手をグッと握ると引っ張り上げた。

「今度は俺が待つから」

「えっ?」

「カズが大学卒業するの」

「智」

「まだ先の話だけど……カズが大人になったら一緒に暮らそう」

俺の言葉を聞いて、カズの目から涙か零れ落ちでいく。

「もう、またここで泣くの?」

「違うもん……うれし涙だもん」

あの日のように生意気な口を利く。

「はいはい、分かりました」

袖で涙を拭ってやる。

「約束してくれる?」

「ん?」

「これからは、毎年一緒にここに来てくれる?」

「うん」

「ずっと俺の事、好きでいてくれる?」

「うん」

「俺の事、離さないでくれる?」

「うん」

「絶対に約束、破らない?」

「うん」

「じゃあ、約束……」

俺の前に小指を立てて差し出した。

俺は小指を絡ませるフリをして差し出した手首を引っぱり、カズを抱き寄せた。

「ちゃんと、約束してよ!」

俺の胸をガンガン叩いてくる。

「カズ」

見上げたカズの唇にキスを落とした。

「約束ね」


あの時とは違う……

恋人だからできる方法で約束を交わした。


【END】

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