友達のままがいい
第5章 (過去)社会人
慶介の口から則ちゃんの名前が出るとは思わず言葉を失った。
「さっき、行きつけの店を聞いた時もそんな顔したよね。篠宮と何か関係あるの?」
静かな声音だけど、私の心の中に鋭く突き刺さる。
どうしてそんなにも私の心が分かってしまうのかと慶介を見つめ返すと、真剣な眼差しを私に向けていた。
真っ直ぐに見つめられる視線に自然と言葉になる。
「行きつけの店…本当はあるの…けど…則ちゃんも行きつけの店で…」
「だから僕を連れて行きたくなかったの?」
間髪入れずに言葉にする慶介に小さく頷くと、慶介ははぁ~とため息を吐く。
「ねぇ…文香。その気持ちが何か分かってる?」
まっすぐに見つめられながら告げられる言葉に自然と視線が下を向く。
「ふたりだけの空間に僕を入れたくなかったんだよね。そこは2人だけの大切な場所だから…違う?」
何も返事をしない私の手をそっと包みこむ慶介は、私が心の中にしまいこんでいた想いを言葉にする。