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俺の男に手を出すな

第5章 お狐さま

【智side】

翔君に初めて会った時、翔次さまに良く似ているから驚いたんだ。

名前も「翔」だしね。

思わずオイラ、尻尾はどうしたんだろう、って思って、翔君の尻ばっかりジロジロ見ちゃったんだけど(笑)。

段々成長していく翔君を見ていて、今度は翔太さまにそっくりになっていって。

ああ、そういうことか、って。

自分の中で翔君の存在がどんどん大きくなって。

もう、自分の気持ちを無視できないな、ってなった時にわかったの。

あの時、翔太さまが、大切な存在をかたどる、って仰ってた意味。

なんだ、じゃぁ、ずっと前から神様はご存知だったんだな、って思って。

俺たちが出会うことも、くっつくことも、決まってたことなら。

悩む必要ないや、って吹っ切れたんだ。





「あっ、あったぁ!」

翔太さまが指差した先にフッと視線をやった翔君が、嬉しそうな声を上げる。

神仏を見ることが出来なくても、翔君はちゃんと教えてくださってることに気がつく。

素直で、心が綺麗だから。

マスクを外して顎にかけた翔君が、オイラを振り向いて、子供の時とおんなじ顔で笑ってる。

目尻に出来る笑い皺は昔と変わらないけど。
今ではもう翔君の方が翔太さまより大人に見えるなぁ。

お狐さまは人間と違って長い時間を存在していくから。
翔太さまの見た目はあの頃とあまり変わってなくて、25歳ぐらいの翔君によく似たお姿をしてるんだ。

オイラは懐かしくて、顔が笑ってしまう。

嬉しいんだ。

ちっちゃかった翔君と、10年ぐらい前の翔君と、現在の翔君。

そして、この先の翔君。





翔。

ずっと、一緒に居ような。





「さ、帰ろう
オイラ、尻が冷えたよ」

「あっ、待って、智君」

立ち上がりかけると、翔君が慌ててオイラの方に、にじり寄ってくる。

しゃがんだままの姿勢で止まってたら。
翔君がオイラの左手を取った。

ンッ、ってした唇をキュッと吸い込んで。
照れて、ドキドキしてる時の顔をして。

オイラの左手、薬指に。
不器用な手で一生懸命。

四つ葉のクローバーを結んでくれた。






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