オオカミは淫らな仔羊に欲情する
第26章 浮かれてる場合じゃないっ!!
タクシーに乗るなり、彼にキスされて、
うっとりしたのもつかの間。
本日の下着セット、
300円の小母さんパンツという、
厳しい現実を思い出した。
彼は舌で私の口腔の中を貪ったあと、
唇を離した。
離した後も、その距離、恐らく五センチ以下。
半ば閉じた双眸が色っぽい。睫、長い。
―― そんな事で、恍惚としている場合ではない!
今、目の前にある危機に対処せねば。
どうも彼は私を自宅に連れ込み短時間でヤろう
としているようだが、それは、とっても、マズい。
こんな誘いにノッてほいほいヤっちゃう女は、
せいぜいセフレ止まりだろう。
尻軽だと思われるのは、非常に心外な事だ。
そして、何よりまずいのは、
本日身に付けている下着がグ*ゼの白パン、
よりによってパンダのアップリケがついたパンツ
ということだ。
最早、セフレにすらなれない予感……。
そんな私の懸念もなんのその、
彼はまた私に口づけた。
「ん ―― ふ」
今度は舌は少し入れるだけで、
角度を変えながら何度もキスをしてくる。
そうしながら私の左胸が彼の手に包まれた。
思わず、背中に回していた手の指に力が入り、
ぎゅっとしてしまう。
すると、彼は嬉しそうな表情になった。
「今日はうちに泊まっていけよ……」
私も本当は帰りたくない。
でも、パンツがパンダ柄だし……。
「で、でも、明日は……」
ほんと、この間の二の舞を踏んでしまう前に、
可及的速やかに芝浦へ引っ返し、
港南寮へ帰らなければ!
「11時半までにうちを出れば大丈夫だよ」
胸の上にあった手のひらが円を描くように動き、
私はびくっと反応してしまう。
ここで快楽に溺れるわけにはいかない。
声を絞り出す。
「で、でも、今、もう6時くらい……じゃない?」
「残念でしたぁ~。まだ夕方だよ」
彼はそう言うや運転手さんに向かって
「あ、ここで結構です」と告げた。