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オオカミは淫らな仔羊に欲情する

第30章 哀しい決意

 夕食が終わってから、
 担当の先生が退院前診察をしに病室へやって来た。
 
 
「うん ―― 脈拍も血圧も正常。退院しても無理は
 禁物だよ。それに、なるべくお酒は控えて、
 規則正しい生活を心がけてね」
 
「はい」

「悩み事は内へ溜め込まず、誰でもいいから聞いて
 貰うこと。たったそれだけだって、かなり精神的
 には楽になるハズだから」
 
「はい……」   


 最後に医師は絢音の手の甲へ親愛のキスを落とし
 
 「キミに神の御加護があらん事を――」と
 祈りの言葉を呟いた。
 


 そうして迎えた退院当日 ――
 
 
   
「やっほ~、退院おめっとさん」

「利沙ぁ、迎えに来てくれたのー?」

「当たり前でしょ~。ほんとはめぐ達も来たがった
 んだけど、卒業式の準備に手間取っててね」
 
「そっか……で、利沙、頼んでおいた事だけど――」

「あんたから希望のあった通り準備は完了したけど。
 本気なん?」

「うん。とりあえず誰も知らない所に落ち着いて。
 先の事はゆっくり考えたい」
 
「……OK。あやがそこまで覚悟決めてるなら、
 私はもう何も言わへん ―― ほな、行こか」
 
 
 それから絢音と利沙の2人は病院の正面玄関前の
 タクシー乗り場から乗ったタクシーで、
 一路、利沙の実家・森下家が所有する箱根の
 別荘へ向かった。

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