オオカミは淫らな仔羊に欲情する
第30章 哀しい決意
皆が引き払ったあと、
大林校長がもう1度病室にやって来た。
「あら、校長先生……何かお忘れ物でも?」
「あぁ、そうなんだ。実はね……キミが先日入学を
辞退した祠堂学院大学からまた連絡があってね。
お話ししたら、是非とももう1度考え直して
欲しいって言うんだ」
話しって……この人は一体何の話しをしたんだ?
「善は急げ。早速明後日の約束を取り付けておいた
から、必要書類持参で行きなさい。
あぁ、学校の場所は分かるね。
担当は学生課の支倉さん。ちゃんとスーツを着て
行くんだよー」
校長は自分の言いたい事だけ言うと、
足早に病室を後にした。
残された絢音は一体どうゆう反応を
すべきなのか?さえ、分からず、
ただ ただ 呆然とするばかりで
嬉しい知らせのハズなのに、
絢音の表情は何故か曇ったままだ。
和美と神宮寺愛奈が自分に対しあれ程までに
敵愾心を持っていると気付く前までは、
東京で就職するつもりでいたが、竜二の気持ちが
どうであれ、このまま東京にいたら自分はずっと
竜二から離れられないと悟った。
会社経営の事なんてさっぱり分からないけど、
2人の ―― 各務竜二と神宮寺愛奈のお見合いと
事実上の婚約は皆んなもそう言っている通り
政略的な事が多分に含まれていると思う。
だから、もし竜二が愛奈との婚約を白紙に戻そう
ものなら ―― 平成のフィクサーと言われている
愛奈の父親がどんな汚い手を使って竜二潰しに
出てくるか分からない。
竜二にはいち企業の代表取締役幹部として組織を、
そこで働く従業員達を守る義務があるのだ。
自分の感情だけで行動は出来ない。