
オオカミは淫らな仔羊に欲情する
第34章 3月31日
港南台のヒデさんと奥さんの真弓さん、
そして愛娘・桃子ちゃんにお別れの挨拶。
「―― 短い間でしたが色々お世話になりました」
「あぁ、郷(さと)に帰っても頑張れよ。
あ、それと結城先生に宜しく」
「はい、伝えます」
「急に水が変わると体調崩し易いから、身体には十分
気を付けてね」
「はい」
「あーちゃん……ほんとにもう、さよなら?」
「少しの間(あいだ)ね。次のお正月が過ぎたら
遊びにくるから」
「ほんと??」
「うん。ほんと」
「じゃあ、指切りしよ」
桃子ちゃんと指切りげんまん。
最後にヒデさんも真弓さんも私を抱きしめ、
景気付けるように背中を叩いてくれた。
今日は1日、こんな感じの挨拶回りで
明け暮れ。
夕方過ぎ、まんぷく亭で利沙と落ち合った。
「―― おばちゃ~ん? 生大ひとつ追加ぁ!」
「あいよ~」
「……そっかぁ、いよいよ行っちゃうか……」
「うん……」
「あ、向こうで合コン開きなねー。
で、私にもお零れ紹介して」
「あんたね……そんな事だから利沙の恋は持続性が
ないのよ」
店のおばちゃんが追加の生を持って来た。
「はいよ、お待たせー。
これはおばちゃんからの奢り」
「え~、おばちゃん、ありがとね~」
「お馴染みさんが皆んな行っちゃうとなると、
急に寂しくなるわねぇ」
「なーに言ってんの。
今や京都と東京なんて新幹線でたった2時間だよ?
お盆とかお正月には京都土産たっくさん買って
遊びにくるからね」
「そう? 楽しみにしてるわー」
