
オオカミは淫らな仔羊に欲情する
第10章 新天地・東京へ
まずい、どうしよう……?
絶対、関り合いにはなりたくない!
一気に身体が硬直する。
しかもくわえ煙草のいかつい男!
行かなくちゃ、
関わらないよう声をかけられないように、
さりげなくここから去らなくちゃ。
急に絢音の心臓が騒ぎ出す。
「―― そこ、いい?」
煙草をくわえたままの運転手が、かったるそうに
目を細め話しかけてきた。
自販機前に佇んでいるだけの絢音はビクッとする。
「用ないならどいてもらえる」
ぶっきらぼうに言った運転手だが、
話しかけた絢音がいつまでも固まって動かないので、
訝しそうに下から上までじろじろと絢音を
眺め始める。
そこでやっと我に返った絢音は自販機から退く。
そうだ、関わらずに早く去ろう。
踵を返し足早に最寄り駅へ向かう。
離れたのに、絢音の背後から煙草の匂い。
湿った空気に乗って自分を追いかけてくるようで
顔をしかめる。
この道をまっすぐ、次の角を曲がったら駅は
すぐそこだ。
絢音は急いだ。
