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オオカミは淫らな仔羊に欲情する

第17章 セカンドキッス


 互いの自宅のある芝浦方面へ向かって
 走行中 ――、

 それまで車窓に流れる景色を睨むよう見つめていた
 絢音がおもむろに叫んだ。

 
「停めて」

「あぁっ?」

「いいからここで停めて!」

 
 各務は言われるままに、路肩へゆっくりと停車して
 ハザードを点滅させた。

 何を思ったのか、絢音は、ロックをガチャリと外し
 ドアを開ける。

  
「和泉っ」


 途端、季節外れの寒風が車内へ容赦なく吹き込む。
 
 それでも躊躇うことなく、
 絢音はドアの外に足を下ろした。

 各務も慌ててその後を追った。

 絢音はそのまま、路肩沿いの土手へ登って行く。

 
 土手沿いの遊歩道にある数百本の桜は、
 今はまだ五分咲きといったところだったが、
 そよ風にハラハラと舞う狂い咲きの枝垂れ桜は、
 夕映えの薄紅色と相まって息を呑む程の
 美しさだった。

 ちょうど自分の脇を通り過ぎていった、
 5才位の子供の手を引く若い親子連れの後ろ姿に、
 在りし日の両親と自分の姿をオーバーラップさせる
 絢音 ――。


「家の近くにもこんなとこあってさ、小さいの頃、
 出勤前のお父さんとお母さんと
 その並木道を散歩するのが一番の楽しみだった」

「ふ~ん……」


 その時、吹き抜けた一陣の風が足元に溜まっている
 桜の花びらをぶわぁ~っと吹き上げ、
 その景観に絢音はうっとりとした視線を向けた。


「わぉ、すっごぉい……」

「……」


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