オオカミは淫らな仔羊に欲情する
第19章 仔羊、危機一髪!
その時 ――!
後ろの方で『オイッ!』と、男の声がした。
一同一斉にその声がした方へ振り返った。
やって来たのは、室内着にサンダル履きという
軽装の各務先生だった。
コンビニからの買い物帰りなのか?
片手に小さなビニール袋を下げている。
「せ、先生 ――?!」
「おぉ! 化学のぐうたら教師も来おったか。
こりゃ手間が省けてちょうどええわ」
「だぁれが、ぐうたらだってぇ?」
(あぁ、もうっ ―― ひとりでカタつけようと
思ってたのに……っ)
「帰るぞ絢音」
と、絢音の手を引いて、各務が数十歩進んだ所で、
やっと男達は我に返り、ザザッと2人を
取り囲んだ。
兄貴分の男は茹でダコの如く顔を真っ赤にさせ
怒鳴り散らす。
「てめっ、いきなり横っちょからしゃしゃり
出てきおって、人のもんかっさらっていくたぁ、
とうゆう了見や?!」
力ずくで絢音を奪還しようとするが、
その数秒後には各務の投技によって、
綺麗に空を切り兄貴分の男の体は無様に
地面へ叩きつけられた。
「あ、兄貴ぃ?!」
「さ、さどやまさんッ!」
「いたたたたた ―― てめぇ! よくもヤり
やがったな」
したたかに打ち付けられて、かなり痛むだろう
腰の辺りを手で擦りながら立ち上がり、
各務と対峙する。
各務は先ほどまでの、のほほ~んとした
雰囲気からは口調も態度も、ガラリ変わった。
「サドだかマゾだか知らねぇが、この和泉絢音は
オレの女だ。気易く手出しする野郎には地獄を
見てもらう」
”佐渡山”と呼ばれた、兄貴分の男は
仲間達を見渡し声を荒げる。
「何ボサッとしてやがんだ。構うこたぁねぇ、
2人まとめて片付けちまえ」
自分達の意思で、というより、佐渡山の剣幕に
気圧されて仕方なく、という感じで仲間の男達が
一斉に各務と絢音へ殴りかかってゆく。
それを、各務は絢音を庇いながら余裕で応戦。
絢音は自分も各務の助けになりたいのに、
各務がそうはさせないのでイラつく。