夜の影
第38章 時代
【紀之side】
奴は電話で、最初にサカモトのことを口にした。
『林はこの後それどころじゃなくなるから、健のことは諦めますよ。
健を取り戻すならチャンスは今しかない』
『健のことは諦めても、アキラのことは諦めない』
アキラを拉致することに躍起になっている林の目を眩ませて、ケンを兄の元へ返す事、それが目的だったのではないか。
そう考えると辻褄が合う。
日本へ来た早々にケンとはぐれたというのは、計画のうちだったのだろう。
林の日本行に乗じて、ケンを逃がすことが目的だった。
そうとしか思えない。
ではケンを逃がして自分はどうする?
智をどう使うつもりだ?
『林はこの後それどころじゃなくなる』
『ヤバイ宗教団体』
林を見限って、智を手土産に香港へ戻る算段か。
ヤバイ宗教団体とやらに智を差し出し、自分の身の安全をはかる。
「智……」
耳鳴りはまだ治まらないが、呼吸が幾分落ち着いてきた。
脂汗が全身をべったりと湿らせている。
近くに積まれていたコンテナの台座を手掛かりに立ち上がった時、後頭部にゴツッと硬いものが触れた。
「ご苦労さま」
多分そう言ったのだろう、背後から若い男の声がした。
耳鳴りのせいで反響して聞こえる。
「ゆっくりこっちを向きな」
肩に手を掛けられて、促された。
振り向くと、見たことのない若い男が銃口を俺に向けて立っていた。
「よくココまで来れたね」
ニヤリと嗤う顔の幼さに驚く。
多分智とそう変わらない年だろう。
「……智はどこだ」
「アンタ、どこか悪いんだろ。
顔色が真っ青だ」
俺の質問には答えずに嘲るように言った。
「探し物はこれだろ? 返すよ、ほら」
放り投げられ、地面に落ちたソレは、智に持たせた発信機だった。
「智は……一緒じゃないのか」
「あいつ健の友達だし、可愛かったからさ、アンタから自由にしてやったんだよ。
アンタ等みたいに、ガキを食いものにして儲けようとする連中には反吐が出る。
あ、吐いてたのはアンタの方か、あははっ、ダセェ」
銃口が上を向いて俺の額に当てられた。
「…………」
「命乞いしてみろよ」
「……智はどこだ」
「助けてください、だろ」
「智はどこか、と訊いている」
カチリと撃鉄が上がった。
奴は電話で、最初にサカモトのことを口にした。
『林はこの後それどころじゃなくなるから、健のことは諦めますよ。
健を取り戻すならチャンスは今しかない』
『健のことは諦めても、アキラのことは諦めない』
アキラを拉致することに躍起になっている林の目を眩ませて、ケンを兄の元へ返す事、それが目的だったのではないか。
そう考えると辻褄が合う。
日本へ来た早々にケンとはぐれたというのは、計画のうちだったのだろう。
林の日本行に乗じて、ケンを逃がすことが目的だった。
そうとしか思えない。
ではケンを逃がして自分はどうする?
智をどう使うつもりだ?
『林はこの後それどころじゃなくなる』
『ヤバイ宗教団体』
林を見限って、智を手土産に香港へ戻る算段か。
ヤバイ宗教団体とやらに智を差し出し、自分の身の安全をはかる。
「智……」
耳鳴りはまだ治まらないが、呼吸が幾分落ち着いてきた。
脂汗が全身をべったりと湿らせている。
近くに積まれていたコンテナの台座を手掛かりに立ち上がった時、後頭部にゴツッと硬いものが触れた。
「ご苦労さま」
多分そう言ったのだろう、背後から若い男の声がした。
耳鳴りのせいで反響して聞こえる。
「ゆっくりこっちを向きな」
肩に手を掛けられて、促された。
振り向くと、見たことのない若い男が銃口を俺に向けて立っていた。
「よくココまで来れたね」
ニヤリと嗤う顔の幼さに驚く。
多分智とそう変わらない年だろう。
「……智はどこだ」
「アンタ、どこか悪いんだろ。
顔色が真っ青だ」
俺の質問には答えずに嘲るように言った。
「探し物はこれだろ? 返すよ、ほら」
放り投げられ、地面に落ちたソレは、智に持たせた発信機だった。
「智は……一緒じゃないのか」
「あいつ健の友達だし、可愛かったからさ、アンタから自由にしてやったんだよ。
アンタ等みたいに、ガキを食いものにして儲けようとする連中には反吐が出る。
あ、吐いてたのはアンタの方か、あははっ、ダセェ」
銃口が上を向いて俺の額に当てられた。
「…………」
「命乞いしてみろよ」
「……智はどこだ」
「助けてください、だろ」
「智はどこか、と訊いている」
カチリと撃鉄が上がった。