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夜の影

第8章 素描

【翔side】

「…サトシ…?」

ベッドに居ないから、呼んで、ゆっくり起き上がる。

サトシは?

寝起きでぼんやり考えてたら、ドアが開いた。

「やっと起きた」

やれやれ、って顔で俺の近くまで歩いてきて。
額に手を当てる。

「寒気とか、する?」

しない、って首を振ったら、ふにゃって笑った。

「尻は?」

出た、尻。

大丈夫だよ、ばか。

上目遣いに睨んでやって、サトシに向かって腕を伸ばした。

くっくっ、って笑いながら俺の腕をとると、自分の肩にかけて立たせてくれる。

「じゃ、風呂入ろうぜ
躰、洗いたいだろ?」

腕を外そうとするから、ぎゅって抱きついてやった。

「…なんだよ」

言って背中を抱きしめてくれる。

「さみしかった?」

うるさい、ばか。
いなかったから、なんで?って思っただけだよ。

話が出来ないから、また、ぎゅってして、頭をサトシの方に寄せた。





不思議なもので、一晩経ったら、この人だけを相手に、無言のままで過ごす事にも慣れてきてる。

バッチシステムのことを聞いた時は、初対面の相手とずっと口もきかないで二人でいるなんて、きっと相当気まずいと思ったのに。

サトシの雰囲気のせいなんだろうな。

「ふふっ」

口が悪くて、下品な冗談ばかり言ってさ。





会話して、もっとサトシのことを知りたいと思うけど。
そうしたら自分のことも言わなくちゃいけない。

今の俺の状況なんて、話しても仕方ない。
暗くなるだけだし。

俺自身が、多分、考えたくない。

話さないで済んでホッとしてる。

今は、考えたくないんだ。
ただ、この人と、くっついていたい。

「ショウは甘ったれだな」

違います。
俺は子供の時からいつだって、しっかりしてる子、って言われてきたんだ。

ただ、サトシの体温が気持ち良くて。
好い匂いがするから、くっつきたくなっただけ。

あんたにしか、しない。

「ほら、行くぞ
尻、洗ってやる」

尻!

「だはっ!」

思わず吹き出して笑ってしまう。

サトシが首を捻って キ ス してくれた音が、耳の中に響いた。








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