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夜の影

第2章 The first impression

【智side】

美人だな、と先ず思った。

アーモンド型の大きな目が印象的だ。
眉山から眉尻にかけての角度が男らしい。

やけに紅い唇と、とがった顎が女の子みたいだ。

ちょっとチャラ目か?

ピアスの穴が開いてるのと、シルバーのネックレスをしてるのがチャラく見えるんだな。

ダメージデニムに白いTシャツ?
上にグレーのパーカーを羽織ってる。

イイトコのボンが行く学校の筈だけど、そこら辺にいる兄ちゃん達とあまり変わらないスタイルだ。

つーか、顔が派手。

なで肩。




俺が右の口角だけ上げて見せたら、サクライショウはフイッと目を逸らした。

こりゃぁ、血統書付きのシャム猫だ。

自分よりも優れたところがある相手でなければ、決して認めないタイプだろう。
どうでもいいと思ってる相手のことは、そこら辺のポストと同じぐらいにしか思ってない。

これを俺に仕込めって?

ま、顔は可愛いけど。





「観察は終わったか?」

新聞から目を離さないまま、社長が口を開いた。
俺の頭の中のカウントは180になっている。

「用がないなら帰るけど」

フン、と鼻で笑われる。

「お前は相変わらずだな
ぼんやりと眠そうで、喋るのが遅い」

けっ。
余計なお世話だ。

「初会は一週間後だ
時間がない
今日から下を使うんだな」

サクライショウが小さく身じろぎした。

この断定的な口調、うんざりする。
わざとらしく溜息を吐いてから言ってやった。

「…なんで俺?」

「代わりにお前が行くならそれでもいいぞ
俺はどっちでも構わないが」

また、フンと鼻で笑って煙草を揉み消す。

忌々しい。
やっぱりコイツには何を言っても無駄だ。





「ショウ、こっち」

新人についてくるように促し、社長に背を向ける。
その瞬間を狙ったように声がかかる。

「智、挨拶」

無視してサクライショウに顎で行くぞと示した。

「智」

再び呼ばれたその声が、ゾッとするほど冷たくて。
この男に三度目が無いのを思い出す。

「…チッ」

仕方なくのろのろと傍へ行くと、新聞の位置が下がって、組まれた長い脚がほどけた。
俺はその 脚 の 間に立って、身をかがめる。

久しぶりの 口 づ け は煙草の味がした。






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