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夜の影

第2章 The first impression

【翔side】

「お待たせ」

5分ぐらい経っていただろうか。
丁度サトシが戻ってきたタイミングで、一度上りで素通りしたエレベーターが、下りになって到着した。
そのまま肩を押されて乗り込む。

エレベーターの扉の上にあるデジタル表示の数が、降下に伴って小さくなるのを眺めていると、不意にサトシの声がした。

「逃げなかったんだな」

え?と心外に思って、サトシを見つめると、そこにはさっき社長のところで見たような無表情の顔があって、俺はちょっと息をのんだ。

「お前、イイトコのボンだろ?
男に 抱 か れ て ヨ ガ る自分に耐えられんの?
あ、
それとも、元々そっちの願望があったとか?」

言葉はゆっくりなのに、びっくりするような冷たさで言われた。
一瞬たじろいでしまう。

直後に 羞 恥 心がやってきて、頭に血が上った。

「っ…」

お前ふざけんなよ!と言いかけて、思い留まる。
社長から、バッチシステムのことを聞かされた時に、仕込みの間は決してバッチと口をきくなと厳命されていた。

それが守れなければ、玉として抱えることは出来ない、って。








「逃げてもいいんだぜ
今、お前が走って逃げても俺は追わない
俺は、お前には無理だと思う」

淡々と言われて、今度は怒りで顔が熱くなった。

舐 め やがって。

視線で殴ってやるつもりで睨みつけてやったが、サトシの表情は変わらない。
冷酷、と言ってもいいような冷たさだ。

「悪いことは言わない
パパとママのところへ帰んな
ちょっとアヤシイ空気は味わえただろ
ごっこはお終いだ」

言って、口の端だけゆっくりと吊り上げた。

こっちが言い返せないのをわかってて、好きなことを並べやがって。

帰るところなんか。

ない。








エレベーターが1階に着いた。

「1時間やる
ほんとに仕事として始めるつもりなら
事務所に戻って来い
言っとくけど
俺は手加減しないよ」

サトシは財布から数枚の札を取り出すと、俺の尻ポケットにねじ込む。
そのまま俺を置き去りに、非常階段の方へ歩いて行った。




















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