
闇に咲く花~王を愛した少年~
第5章 闇に散る花
ひんやりとした夜気が膚を刺し、思わずかすかに身を震わせると、〝寒いのか?〟と優しく顔を覗き込んで問われた。
誠恵は微笑み、首を振る。
―ああ、これでやっと夢が叶う。
誠恵はそっと眼を閉じる。
狂おしく求められることも、身体をおしひろげられることも、愛する男にされるならば、これほどまでに悦びと快さを感じるものなのだとその時、誠恵は初めて知り得た。苦痛と嫌悪だけを与えられた領議政との初夜とはまるで違う。
王は誠恵を壊れ物のように大切に扱い、優しく何度も抱いた。
この至福の瞬間さえあれば、自分はどんな試練だって乗り越えられる。
誠恵は恋しい男の腕の中であえかな声を上げながら、涙を流す。
すべらかな頬をつたう涙の雫を目ざとく見つめて、王が唇で吸い取る。
「―愛している、誠恵」
「この言葉をお聞きしただけで、たとえこの場で息絶えても構いません」
誠恵は光宗の腕に包み込まれ、泣いた。
「愚かなことを申すな、予とそなたはこれから始めるのだ。誠恵、改めて言う。張緑花として私の傍で生きてくれ。そなたにとっては偽りの生やもしれぬが、たとえ女と偽って生きていても、それは見せかけだけで人眼をごまかす手段にすぎぬ。予は誠恵という一人の人間を常に見て、求めているのだ。張緑花として私の妃となり、私の伴侶として生きてくれ」
光宗の真心が伝わってくる求愛の言葉だ。誠恵が男であると承知しながら、生涯、妃として傍にいて欲しいとは、よほどの決意と覚悟がなければ口にはできないだろう。
誠恵は最も気がかりなことを訊ねた。
「領相大監とのことは、お訊きにならないのですか?」
光宗は真っすぐに誠恵を見つめて淀みなく言う。
「そなたが結局は予を選んだというのなら、予は過去にはもう、こだわらぬ。だが、これからは予以外の男のことを考えることは許さん。予の傍にて、予だけを見ていろ、良いな?」
そんなはずはない。男なら、きっと嫌なはずだ。他の男の抱いた使い古しなんて、抵抗ないはずないし、何より誠恵は王をずっと騙していたのだ。もっと怒って当然だし、もう顔も見たくないと言われ、突き放されても当たり前なのに。
誠恵は微笑み、首を振る。
―ああ、これでやっと夢が叶う。
誠恵はそっと眼を閉じる。
狂おしく求められることも、身体をおしひろげられることも、愛する男にされるならば、これほどまでに悦びと快さを感じるものなのだとその時、誠恵は初めて知り得た。苦痛と嫌悪だけを与えられた領議政との初夜とはまるで違う。
王は誠恵を壊れ物のように大切に扱い、優しく何度も抱いた。
この至福の瞬間さえあれば、自分はどんな試練だって乗り越えられる。
誠恵は恋しい男の腕の中であえかな声を上げながら、涙を流す。
すべらかな頬をつたう涙の雫を目ざとく見つめて、王が唇で吸い取る。
「―愛している、誠恵」
「この言葉をお聞きしただけで、たとえこの場で息絶えても構いません」
誠恵は光宗の腕に包み込まれ、泣いた。
「愚かなことを申すな、予とそなたはこれから始めるのだ。誠恵、改めて言う。張緑花として私の傍で生きてくれ。そなたにとっては偽りの生やもしれぬが、たとえ女と偽って生きていても、それは見せかけだけで人眼をごまかす手段にすぎぬ。予は誠恵という一人の人間を常に見て、求めているのだ。張緑花として私の妃となり、私の伴侶として生きてくれ」
光宗の真心が伝わってくる求愛の言葉だ。誠恵が男であると承知しながら、生涯、妃として傍にいて欲しいとは、よほどの決意と覚悟がなければ口にはできないだろう。
誠恵は最も気がかりなことを訊ねた。
「領相大監とのことは、お訊きにならないのですか?」
光宗は真っすぐに誠恵を見つめて淀みなく言う。
「そなたが結局は予を選んだというのなら、予は過去にはもう、こだわらぬ。だが、これからは予以外の男のことを考えることは許さん。予の傍にて、予だけを見ていろ、良いな?」
そんなはずはない。男なら、きっと嫌なはずだ。他の男の抱いた使い古しなんて、抵抗ないはずないし、何より誠恵は王をずっと騙していたのだ。もっと怒って当然だし、もう顔も見たくないと言われ、突き放されても当たり前なのに。
