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闇に咲く花~王を愛した少年~

第5章 闇に散る花

 光宗が袖から小さな布包みを取り出して誠恵におもむろに差し出した。
 小首を傾げて見返す誠恵を眩しげに見つめ、光宗は笑った。
「開けてみると良い」
「よろしいのでございますか?」
「ああ」
 誠恵は言われるままに布を解いた。中から現れたのは、エメラルド(翠玉)の玉(オク)牌(ペ)と簪だった。
 薔薇の花の形をした石のついた簪と玉牌を誠恵はしばらく無言で眺めた。
「このような高価なものを―、よろしいのですか?」
 光宗は微笑む。
「ずっと前から、そなたに贈ろうと作らせていたのだ。あれこれとあったから、今まで渡せずにいた。気に入ってくれたか?」
 照れ臭そうに言う顔もまた世子誠徳君のはにかんだときの顔とよく似ている。
「ありがとうございます。大切に致します」
 玉牌と簪を胸に抱きしめると、光宗は笑う。以前と変わらない優しい笑顔に涙が出そうになった。
「そのようなもので良ければ、幾らでも作らせる。そなたは欲がなさすぎる。もっとねだり事をすれば良いのだ」
「いいえ、殿下の恩寵を頂く者がねだり事などしては、国の乱れの因となります。民の生活が困窮しているときに、殿下や王室の方々が民が納めた金を女のために使えば、民は殿下に失望することでしょう」
 誠恵が本心から言うと、光宗は笑いながら言った。
「そなたは口煩い妻になりそうだな」
 〝妻〟、自分には一生縁のない言葉だと思うと、泣けそうになる。
 誠恵の背中に回された光宗の手に力がこもり、強く抱きしめられた。
 誠恵は、ありったけの想いを込めて光宗を見上げた。
「殿下、私を一度だけ抱いて下さいますか?」
 かすかに愕きの表情が端整な面にひろがる。
「―良いのか」
「はい」
 逡巡せず頷いた誠恵を光宗がいっそう強く抱きしめ、誠恵はあまりにきつく抱きしめられ、息苦しさに小さな胸を喘がせた。
 そっと褥に押し倒され、夜着の前結びになった合わせ紐を解かれ、前をくつろげられる。

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