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闇に咲く花~王を愛した少年~

第5章 闇に散る花

「殿下は意地悪にございますね」
 誠恵が負けずに言い返すと、光宗は嬉しそうな顔をした。
「よし、それではもっと意地悪をしてやろう。予はまた誠恵が欲しくなってきた」
 再び乳首を口に銜えられ、誠恵は悲鳴を上げた。
「どうだ、気持ち良いだろう?」
 跳ねる身体を押さえ込みながら、光宗が誠恵のすんなりとした両脚を高々と抱え上げ、彼の中にひと突きに押し入ってきた。
 ふいに訪れためくるめく波に押し上げられる。誠恵は艶めいた声を上げながら、高みからあまりにも烈しい快楽の淵に一挙に落とされ、意識を手放した。
 
 どれほどの刻が経ったのだろう。
 次に誠恵が意識を取り戻したのは、既に暁方に近かった。
 夜明け前の蒼さがまだ周囲に漂っており、誠恵はぼんやりとした頭で、ゆっくりと周囲を見回す。
 すぐ隣で規則正しい安らかな寝息が聞こえている。いかにも健康的な寝顔を見せている光宗をこうして間近で見ると、聖君と崇められる国王というよりは、十九歳の若者にしか見えない。
 誠恵の胸に愛しさが溢れ、彼は男の貌に自らの顔を近づけ、そっと頬に唇を寄せた。
 王は腕を誠恵の剥き出しの肩に回したまま、その大きな懐に抱き込むようにして眠っていた。
 この温もりから離れるのは辛い。
 でも、そろそろ行かなければならない。
 いつまでもこの男の優しさに甘えているわけにはいかないから、自分は行く。
 誠恵は肩に回されている手を外し、熟睡している王を起こさぬよう褥からすべり出た。
 手早く周囲に散らばっている夜着を身につけ、部屋を出る。その間際、誠恵はもう一度だけ、背後を振り返った。
 愛しい男(ひと)。
 どれだけの言葉を尽くしたとしても言い表せないほど恋しいあなた。
 もし、私が男ではなく女だったら。
 もし、私が貧しい農家の娘ではなく、両班の令嬢だったとしたら。
 そして、あなたが国王殿下などではなく、ただ人であったなら。
 私は、あなたのお側にずっといることができたでしょうか?

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