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闇に咲く花~王を愛した少年~

第1章 変身

 男が男を相手にする陰間茶屋のような類だとは想像だにしていなかった。
 誠恵が生まれ育った村は貧しかった。わずかばかりの痩せた土地を耕して何とか暮らしているのは、何も彼の家だけではなかった。
 毎年、春と秋に村を女衒が訪れる。必ず幾人かの若い娘が連れられていった。娘は力仕事もできず、たいした働き手にはならないので、親はてっとり早く金を手に入れるために我が子を人買いに売り飛ばすのだ。
 誠恵もまた、そうした女衒に買われた。その時、確かに、おかしいとは思ったのだ。自分は女ではないのに、何故、遊廓に売られる少女たちと共に行かねばならないのか、不審に思った。
 が、大切な商品である少女たちに優しい女衒は、誠恵にこう言った。
―なに、遊廓にも男手は必要だ。使い走りや雑用に使う子どもが不足して、適当なのがいたら頼むと言われてるのさ。
 世間知らずで無知な子どもは、優しげな笑顔と言葉にうかうかと騙されたのである。
 真実を知ってから、誠恵はしばらくは泣き暮らしたが、やがて悟った。
 月華楼は、けして悪いところではなく、むしろ極楽だ。三度の食事はちゃんと食べさせて貰えるし、酒を呑んでは暴れる父親もいない。女将は教養も備えた人だったから、文字も教えて貰えた。
 男に抱かれるというのがどのようなことなのか。それを考えると、総毛立つほどの恐怖に陥ったものの、身体だけなら何ということはない。村で幼なじみとして育ったか弱い少女たちでさえもがやっていることだ。心を殺して、ただ客に身体を開きさえすれば良い。
 そうして何年かを過ごせば、いずれ、晴れて自由の身になれる。と、割り切ったつもりでも、流石にひと月前、女将からいよいよ水揚げが決まったと告げられたときは身体が震えたけれど。
「しかしながら、断っておくが、私は衆道の趣味はない」
 尚善は誠恵の心を見透かしたように言う。
 が、続いての言葉にギョッとなった。
「だが、美しい者に心動かされるのに理由や真理などいるまい。愛し合うことに、男同士であることが何の障りになろう。美しい者を愛するのが罪というなら、私は歓んで禁忌を犯そう」
 物騒な科白に、思わず身体を後退させると、尚善は腹を抱えて笑った。

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