
闇に咲く花~王を愛した少年~
第5章 闇に散る花
朝鮮王朝時代中期、都に一時期流行った歌である。作者不詳であるが、当時、この詩を基に仮面劇の芝居が作られ、都のあちこちで上演され大いに民衆の歓声を受けたという。
多くの人々の心を揺さぶり、涙を誘った切ない恋心を歌ったこの詩を作ったのは後宮女官であり、当時の国王光宗をモデルにしていると囁かれたが、その真偽の程は定かではなく、今となっては光宗の時代の後宮に張緑花という女官が存在したかどうかも不明である―。
ちなみに、光宗は生涯、ただ一人を除いては女人を傍に近づけることのなかった王であり、唯一の例外が十五歳のまだ幼い女官見習いの少女であったとか。しかし、その少女が緑花だという確証はどこにもないし、ましてや、その名前も知られぬ少女がどのような生涯を辿ったのかすらも判っていない。
光宗は独身を貫いた国王として知られており、実子のないまま六十四歳で崩御した。民衆は世に比類なき聖君として讃えられた偉大な王の徳に思いを馳せ、国中の民の哀しみの涙が海のように溢れたという。
光宗の死後は、長らく世子の座にあった光宗の兄永宗の王子誠徳君がが即位。既に五十二歳の新王は光宗に倣い、よく民を労り、仁政をしき光宗に続き、聖君と呼ばれ慕われた。
この後、朝鮮王朝の王統は誠徳君の子孫が代々継承してゆくことになる。
(了)
