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闇に咲く花~王を愛した少年~

第5章 闇に散る花

 自分のどこが悪いわけでも前世で何の罪を犯したわけでもなく、だた宿命という残酷な予め定められた二人のそれぞれの道がけして永遠(とわ)に交わることのないものだった。
 ただ、それだけのことなのだ。
 私の心からお慕いしたお方は、万世をその光で遍く照らす聖君であられた。私はあの方を愛したことをけして後悔はしない、むしろ誇りに思うだろう。
 どこからか、かすかに花の香りが早朝の風に乗って流れてくる。
 暗闇の中で大輪の黄薔薇が妖艶に花開いてゆく。少年の瞼には、その時、確かに漆黒の闇に開く花が映じていた。
「チョ、ナ―」
 愛する男の幸せを祈りながら、誠恵は静かに眼を閉じた。
 


 
 愛しい男(ひと)。
 どれだけの言葉を尽くしたとしても言い表せないほど恋しいあなた。
 もし、私が男ではなく女だったら。
 もし、私が貧しい農家の娘ではなく、両班の令嬢だったとしたら。
 そして、あなたが国王殿下などではなく、ただ人であったなら。
 私は、あなたのお側にずっといることができたでしょうか?
 私には判りません。
 あなたほどのお方が朝鮮の王としてこの世に生を受けられたのは、きっと天のご意思が働いているからでしょう。
 あなたにお逢いして、王は天が決めるものだという賢人の諺が真実であることを、私は初めて知りました。
 きっと何度生まれ変わっても、あなたは必ず聖君として民から慕われる王となられるでしょう。
 だから、せめて私は次の世では女として生まれ変わりたいと思います。
 どれほど貧しくとも、両班の娘でなくとも、少なくとも正真正銘の女人として生まれれば、今度こそ、あなたのお側にいられるでしょうから。
 さようなら、愛しい男。
 どれほどの言葉を尽くしたとしても、あなたへの私のこの想いを語り尽くせるすべはありません。
 

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