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闇に咲く花~王を愛した少年~

第3章 陰謀

 蝶を象った燭台の蝋燭は既に残り半分ほどになっている。淡い光に照らし出された緑花の顔が幾分蒼褪めているように見えるのは、気のせいだろうか。
 最愛の女を疑う心は微塵もなかったが、光宗はそれでも注意深く緑花の顔を見ながら話を切り出した。
「今日の昼過ぎに、そなたはどこで何をしておった?」
 緑花の可愛らしい面に怪訝な表情が浮かび上がる。小首を傾げ、無心な黒い瞳を光宗に向けた。
「それは、どういう意味にございましょうか?」
「別に深い意味はない、ただ、言葉どおりに受け取れば良い」
 そう言ってやると、緑花は淀みなく応えた。
「今日の昼過ぎなら、私は薬房にいたと存じます、殿下」
 その顔には僅かの躊躇いも気後れもなかった。やはり、柳内官の進言は偽りだったのだ―と、光宗は内心、頷く。
「そなた、そこで柳内官と顔を合わせたのではないか?」
 今度も緑花からは、すぐに反応があった。
「はい。確かに一瞬でしたが、お逢いしました。それが何か?」
 王は緑花の眼を真正面から見つめ、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「その時、何か変わったことはなかったか?」
「変わったこと、にございますか?」
 緑花は眼をまたたかせ、しばし考え込んだ。
「特にございませんでしたけど」
 そう応えてから、〝あっ〟と小さな声を上げた。
「そういえば、柳内官はとても怖いお顔をしておいででした。私が薬房にいるので、何をしているのだとお訊ねになったと思います」
「それで、そなたは何を致していたのだ?」
―何故、そのようなことをお訊ねになるのですか?
 緑花の黒い瞳がそう言っているような気がして、光宗は慌てて眼を背けた。
 緑花は何かを思い出すような眼で、少しずつ言葉を吟味するように応える。
 この場の雰囲気から、迂闊なことは口にできないと判断したのだろう。天真爛漫ではあるが、そういった場の空気を読むだけの聡さはある少女だ。

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