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闇に咲く花~王を愛した少年~

第4章 露見

 誠恵は無意識の中に後ずさっていた。
「あ―」
 光宗を怖いと感じたのは、初めてだ。これまで毎夜のように二人で過ごしていても、こんな気持ちを抱いたことはなかったのに。
 そこで、誠恵は、自分が連れ込まれた部屋がかつて自分たちがひそやかな逢瀬を重ねていた場所だと気付く。
「殿下、一体、何を」
 じりじりと近づいてくる光宗が狼なら、多い詰められる自分は弱い野兎といったところか。
 誠恵は怯え切った眼で光宗を見上げた。
「何故、そのような眼で予を見る? 恋しい男に逢えれば、女はもっと嬉しげな顔を見せるものではないか?」
「殿下」
 誠恵は震えながら後退していったが、やがて、その背が壁に当たった。
 光宗の眼付きは尋常ではなかった。聖君と民からも讃えられる国王に何があったというのだろう?
「いや、そなたが嬉しい顔をするはずがない。そなたは予を慕うてなどおらぬのだから」
「殿下、それはあまりにございます。私の殿下をお慕いする気持ちは、ずっと変わってはおりません」
 誠恵が懸命に訴えても、光宗は鼻で嗤った。
「フン、口では何とでも言える。そなたの言葉はすべて嘘だらけだ。口先だけの言い逃れなどで、もう騙されぬぞ」
 一瞬、男であることが露見したのかとも思った。しかし、ならば、わざわざ、こんな人気のない場所に連れてくることはないはずだ。
 光宗は一体、何をするつもりなのだろう?
 寒くもないのに、身体が震える。
 光宗がついに手前まで迫った。
「緑花、そなたが予を拒む理由は何だ? 他に男がいるとでも? 予を焦らして、そなたは愉しんでいたのか?」
「そんな、私は焦らしてなんか」 
 言いかけた誠恵に、いきなり光宗が襲いかかった。誠恵は我が身に起こった事が俄には信じられなかった。
「や、止め―」
 言葉は熱い口づけに塞がれ、もがこうとする両腕は持ち上げて押さえつけられた。
―なに、どうして?

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