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my destiny

第9章 Scar

【智side】

オイラがあまりにも笑って話せないから、神様は秘書の服装をやめて、渋々と元のドラマの衣装に戻ってくれた。

ご本人の俳優さんはコメディアンでもあって、渋い役から暢気なお父さんまで演じるオイラも大好きな方なんだけど。

しばらくお会いしてないし、ドラマでご一緒した時より、今はお年も召されてる筈だ。

エンケンさんだって、たまに仕事でお会いするけど。

夢の中で会う二人は撮影当時のままで、やっぱり本人じゃなくて、イメージとして姿を借りて見せてるだけなんだろう。

まだ若いし、いろいろとデフォルメされていて、妙に抜けてると言うか、おちゃめなところがあって笑える。



「オイラ、翔君とずっと一緒にいる
じーちゃんになっても一緒にいるんだ」


オイラは窓の下にある空調設備なんかが収まってる棚のところに腰掛けて言った。
足が浮くから、ブラブラさせながら話す。

自分の歌、って言われても、抽象的過ぎて、ぼんやりしてるし。

前に、それは実際に歌を歌うことなの?って訊いてみたけど、そうじゃなくて、生きていくのに必要な欲を持つことだ、って言われた。


「二人の夢にしよう、って
翔君が言ってくれたから
オイラ、嬉しかったよ」


ノロケに聞こえると恥ずかしいから、ブラブラ揺れてる足元を見ながら言った。
衣装の革靴が、天井のライトを反射して光っている。

立派なスーツも磨かれた靴も、撮影中は自分には似合ってないと思ってたし。
服に負けてるのが落ち着かなかったものだけど。

オイラ、なんか今は満たされた気持ちだから。
この衣装を着ていてもそんなにおかしくないんじゃないかな。


「未来の自分を想像して楽しめるようになって、
本当に良かったですね
彼が支えてくれたんですね…」


エンケンさんは涙もろいのか、また目を赤く充血させて言った。
神様と二人で、そろってウンウンと頷いてる。

二人とも、親戚のオジサンが、志望校に受かったんだ、良かったねぇ、って言ってるみたいな顔をしてた。





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