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my destiny

第9章 Scar

【智side】

狸の置物のくせに、って言ってやろうと思ったのに、信楽焼って。
肝心なところで、いつも口が回らない。
オイラの精一杯の捨て台詞だ。

社長室を走って飛び出すと、ビルの非常階段へ向かった。
靴音も荒く、どんどん下におりていく。

蛍光灯がチカチカし始めて、薄暗くなったと思ったら消えた。
非常灯の緑の明かりだけが足元を照らしてる。

手すりを頼りに階段を下りていくけど、いつまでたっても終わらない。

社長室は何階にあったんだろう?
上の方から足音が聞こえてくる。

沢山の人の声がしてる。

追いかけてくる。





記者会見…捏造…

本当に関係はなかったのか?…

正直に言うんだ…

ネットに写真が…合成…

無防備すぎる…狙われた…





ライブに影響…被災地…

大野、言うべきことはわかってるな?…

リーダー大丈夫?…負けたら駄目だよ…

この仕事にはつきもの…どう対処するか…





酷い…裏切られた…

お金のため…売り上げ…

グッズ…払い戻し…





違うよ、そんなことしない。

オイラ、そんなひどいことしない。

何のために、こんなことするのかわかんない。

誰が、何のために。

一体誰が、得をするの。





「しょおくん、しょおくん、どこ?」





待ってる人たちが居るのに。

笑えない。

ファンライトが揺れてる。

出て来いって。





「しょおくん、いないの?」





明かりが消える。

真っ暗。

足が滑って、踏み外した。

落ちる。





待って、戻るから。

ちゃんと歌うから。

踊れるから。





「しょおっ」




『智っ!!
いるよ!!
ここにいる!!!』




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