テキストサイズ

my destiny

第10章 僕が僕の全て

【翔side】

月曜日。

いつもの生放送が終わって帰宅すると、卵焼きの甘い匂いが部屋中に漂っていた。

ただいまのキスだけ先にして、取り敢えずシャワーを浴びて戻ってくると、智君はまだキッチンに居る。

俺が浴室へ行く前から焼いてたから、もう30分以上はやってることになる。

これは大作が出来るな、と思わず頬が緩んだ。

前々から、卵を焼くのに一時間ぐらい平気でかける人だけど、これって粘土とか捏ねるのに近い感覚なんだろうか。

無心に焼いているというか。

たまに野菜のみじん切りなんかも、修行みたいに一心にやってることがある。

形を整えながら、手をずっと動かしてる作業が好きなんだろうな。
傍目にはボーッとやってるだけに見えるのが面白い。

頭の中では振り付けの続きを考えてたりするんだろうか。



ドラマのプロモーションが一段落して、俺もいくらか早く帰れるようになった。

今日は、卵焼きと、ホタテの入ったお吸い物を作ってくれるそうで、智君は俺が帰宅した時からずっとキッチンに籠っていた。

そんなに手の込んだものを作ってくれなくてもいいのに、と思ったけど、前に仕事で相葉君と二人で作った話を貴方が楽しそうにした時、俺も食いたい、って言ったのを憶えていてくれたらしい。

モノ作りが好きなこの人らしく、時間がある時に焼いてくれる卵焼きは絶品。

バームクーヘンみたいに、薄く何重にも巻いてあって、砂糖は控えめ。
出汁醤油とみりんが入ってるそうで、端の方の焦げたところが何とも美味くて。

この人が笑った時みたいにふんわりした優しい味わい。

なんだけど。

この唇の突き出し方を見ると、ご機嫌はあまりよろしくないらしい。

楽しみにしていた連休が駄目になって、拗ねているのかも。

「あとちょっとで出来るよ」

「ありがと。大根おろし磨ろうか?」

「いいの?ありがと」

風呂上がりの俺を見てふにゃっと笑った。



作ってくれた料理をリビングのソファセットまで運んで、二人で床に直に座ってビールを開ける。

「んまーい!」

ホカホカだ。

「そう?良かった」

可愛くて、つい手を伸ばして頬を撫でると、智君は照れて下を向いた。

一時は痩せてしまって心配したけど、食欲も戻ってきたみたいだし。
笑顔を見るとホッとする。


ストーリーメニュー

TOPTOPへ