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【翔side】

「ふーっ、ふーっ、
俺、行きたいところあるんだけど
ふーっ
付き合ってくれる？」

智君が言って、蕎麦を口に入れる。

ずずっ。
はふっ。

「んはっ、あついね、これ」

ふーっ。
ふーっ。

アヒル口になってて、蕎麦に息を吹きかける度に上唇が震えてる。

怒られるから言わないけど、俺にとっては、この人が蕎麦を食べてる姿の方がさっきの女性よりもずっとセクシーだ。

「ははっ。じゃぁ、レンタカー借りに行こうか」

蕎麦の上には甘辛く味付けされた豚バラ肉ともやしが山のように乗ってる。
沢山の胡麻と刻み海苔の香りが効いてる。

麺は細くて、俺的にはもうちょっとコシがあっても良いような気がしたけど。
一片置かれたバターがどんどん溶けていって、蕎麦に絡むと癖になるような味だ。

美味い。

「ふーっ、ふーっ
あつっ、ふーっ」

「フーッ、
ドライブも久しぶりだね」

ずずっ。
んはっ。

「なんか夢見て
本物の神様に会いに行くように言われた」

ふーっ。
ふーっ。

「神様？フーッ
安産祈願とか？フーッ
誰に言われたの？」

ハーッ。
汁も美味い。

「あ、そうか、安産祈願か！
ふーっ
んっとね、神様に言われた？
あれ？タヌキ、だったかも
んっく」

どんぶりに口をつけて汁を飲もうとして顔を顰めてる。

「あっつぃ」

二人で汁まで飲み干してから、すっかり汗ばんだ顔で店を出た。

食器を返却する際に思い出して店内を見回すと、例のお姉さんはもう居なかった。