テキストサイズ

my destiny

第14章 Accident 1

【智side】

オイラ、こう見えて人の顔は割と憶えてる方なんだ。
その人の名前とか役職が出て来ないことは多いけどね。
顔は憶えてる。

さっきの男の人、見たこと有る人だと思うんだよ。

よろよろと斜めに進む足取りを見てそう思ったから、きっと釣りで会った人のような気がした。
船から降りた後って、あんな感じの歩き方になるんだ。
いつ、どこで会ったんだろ。

こっちの人で釣りで会った人なら、ボンちゃんのことも知ってる人かもしれない。

振り返って確認したかったけど、翔君に止められたから出来る限り記憶を思い起こしてみる。

うーん…。

「発車、遅れてるね」

翔君がじれったそうに言った。
早くこの場から離れたいと思ってるんだろう。
顔つきが緊張してる。

「やっぱりもう1本前のに乗れば良かった」

ホームではアナウンスが流れてて、この先の駅で何かの点検作業が発生したから発車が遅れる、みたいなことを言ってる。
信号が変わり次第発車する、って。
1本前の新幹線が発車時刻を過ぎているのに、まだ向い側のホームにいた。

「それか、いっそもっと後のにしておくべきだったか」

何て返事をしても苛々させてしまうような気がして。
オイラが黙ってるから、翔君のつぶやきが独り言みたいになってる。

翔君が焦ってるのは俺が一緒に居るからだ。
いつも俺のことばかり気にしてくれてるから。

それに、グループ5人の内で2人が何かの事件に巻き込まれてしまったら、隠すのが難しくなる。

翔君は正義感が強いから、本当は自分で解決したいタイプなのに。
表立って行動できないのが、もどかしいんだろう。

「なんでガソリンなんか…」

黙っているのも落ち着かない気がして言ってみると、翔君が半分唸るような声を漏らした。

「うん…神社で何かしようとしたのかもしれないね…」

「出来なかったんだろうね」

あれだけの神社だもん、人も沢山居たし、あの境内で悪いことが出来るとは思えない。

「あの感じだと、多分酔っぱらってる」

何も出来ずに、でも気持ちが収まらなくて、酒の力を借りてここまで来てしまったのだろうか。
行く当てもないみたいなのに。

「かわいそうに…」

オイラが思わず言ってしまうと、翔君はギョッとした顔をした。





ストーリーメニュー

TOPTOPへ