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機動戦士ガンダム~サナトリウム~  

第5章 風立ちぬ

ジローもナオも一切のことを許し合って昔のように愛し合うようになった。お互いのことを思い出したのがきっかけとなり失われた記憶も徐々に甦ってくる。

ナオが描いてくれるふたりの絵はとても優しくて美しい恋人たちの姿だった。目が見えないとはとても思えない。いや、心の目だからこそこんなにも美しいのか。

ふたりはお互いに残された時間が少ないのを悟っていた。僅な時間を美しく優しく生きようとするかのようにいたわり合って、時にははしゃぎ合って愛を育んだ。

ナオが口づけをせがむのでジローは優しく唇を重ねた。

「いいのよ、来て」
「うん」

ジローとナオは裸になって抱き合った。

その翌日ナオはホスピタルから姿を消した。
ナオの病室には心の目で描いた絵が残されていた。病室のシーツは血で汚れていた。

ジローはすべてを悟って涙を流してナオの残した絵を握りしめた。

ナオは自分の命が尽きるのを知っていたのた。だから、一番キレイな姿を残したくてジローと裸で抱き合ったのだ。ボロボロになって命尽きていく姿は見せたくないから姿を消した。

ナオがいなくなって初めての冬をジローはひとりで迎えた。

ベランダに出て雄大な高原を眺める。少し肌寒いが、優しい風が吹いてくる。

「冬が来るとワケもなく哀しくならない?」

ジローの心にはナオの言葉がリフレインしていた。

少し目眩を覚えてジローは椅子にもたれかかった。吐血もしているようだ。自分もナオのところに逝く時が来たのだとジローは悟っていた。ナオを想って穏やかな顔で瞳を閉じる。

宇宙空間には戦争の傷痕を遺すように撃破されたモビルスーツやモビルアーマーの残骸が漂っている。

そこにはジローのガンダムとナオのモビルアーマーの残骸も寄り添うように漂っていた。
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