兄弟ですが、血の繋がりはありません!
第5章 残したくても忘れるもの
鶫side
「ただいま」
そう言ったきり、部屋に行った悠はリビングに降りてこない。普段この時間なら、夕飯の準備を始めていてもおかしくないというのに。
最近の悠は少し変だから。心配だった。
突然理由も言わず学校へ行かなくなってしまったこと。向こうのお母さんに会いたくないと言い出したこと。どちらも、悠の中で何か変化があった証拠だ。
「ねぇ、兄さん。ハルル大丈夫かな?」
ソファで画集を眺めていた兄は、オレの声に体勢も視線も変えず口だけを開いた。
「悠が助けを求めて来ないなら、俺たちに出来ることは無いよ。悠はとても頭の良い子だから。必ずどんな事も自分で答えを出せるって思うんだけど、鶫はどう思う?」
ああ、やっぱりこの人には敵わないなぁって思う。どれだけ長男らしくなくても、物事に無関心に見えても、本当に大切なものはちゃんと見えていて。
オレに正しい道を示してくれるんだ。
「ん、悠の答えが出るのをオレも待ってるよ。
大丈夫、ウチの末っ子はしっかり者だもんね!」
それじゃあ今はオレの出来ることをしようと、
『夕飯は悠の代わりにオレが作ろう!』
と言ったところを、見たことない速さで止めに来た兄さん。
「俺がするよ」
笑顔だけど笑ってない。
そんなにオレの料理酷いかなぁ?
だけど、兄さんが作ってくれるということは!
「メニューはアレですか?!」
「さて、なんだろうね?」
「もう、兄さんたら焦らしプレイが好きなんだから!」
さっきまでの空気は何処へやら。
もうこうやってふざけられるんだもんな。
…だから、悠とも。
早く3人でふざけて笑い合う日常が戻って来てほしいよ。
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