兄弟ですが、血の繋がりはありません!
第14章 主人公になりたい
鶫side
「午後の畑は後で手伝うからさ、これから裏のおうま先生のとこに行ってきてもいい?」
昼ご飯の片付けが一段落してやっと腰を下ろしたばぁちゃんに、日向ぼっこをしている縁側から声をかけた。
「おうま先生って久しぶりに聞いたねぇ。…まぁいいか。行っといで。その代わり先生の邪魔しないで大人しくしてるんだよ」
『おうま先生』とは、ばぁちゃん家の裏(300m先)に住む獣医さんのことで小さい頃近所の馬を診る先生に着いて行ったのがきっかけで、それ以降おうま先生と呼び続けているのだ。
「ばぁちゃん大人しく、なんて。あの頃だって怖がりだったけど静かな子どもだったし!それに今では立派な高校生だから!」
「はいはい、行くんだったら自転車貸してやるから大造さんところのお菓子買ってちゃんとしなさい」
「はーい、そういえば先生あそこのみたらし団子好きだって言ってた記憶あるかも」
『大造さん』はこの辺りで唯一の和菓子屋さんである『月乃屋』の旦那さんで、小さくて綺麗で美味しいお菓子を作る職人さんでもある人。
お正月に兄さんとハルルと挨拶に行った時に貰った温かいお饅頭、美味しかったなぁ・・・。
「はい、お金。無くすんじゃないよ、そそっかしいんだから。畑の手伝い、今日はいらないけど寒くなる前に帰っておいで」
「ありがと、ばぁちゃん!いってきます!」
***
少し錆び付いた音がする自転車で田んぼ道を下る。冬の冷たい風が頬にピリついて、ぎゅっと首を縮めた。
「おうま先生も大造さんも元気だといいなぁ…」
小さい頃にお世話になった人たち。
その時間は短かったかもしれないけど大切で温かく、ふとした時に思い出しては幸せを呼んでくれる。
「そうだ、お願いして写真撮らせてもらおう」
その思い出が、より鮮やかに残るよう。