兄弟ですが、血の繋がりはありません!
第6章 愛を知らない長男は
悠side
突然だが、
我が家の長男・方来 智希は誰からも愛される。
商店街に行けば肉屋のおばちゃんから八百屋のおじちゃん、魚屋のちょっと厳つい兄ちゃんまで、おまけのオンパレード。
バレンタインには溢れんばかりのチョコを貰って帰り、小さい頃は鶫くんと2人でその日を心待ちにしていた。
だから買い物帰りに声をかけられることも少なくないのであって。まさに今現在、その状態である。
「…ね、だから今日ちょっと顔出さない?智希が来てくれたら皆喜ぶし、ほら最近会ってないし」
兄の高校時代の同級生という、勿論俺は初対面の女性に捕まっていた。
色が白くて、ふわふわした茶色い髪。
"女の子"を形にしたような彼女に腕を絡ませられても、兄の表情筋はピクリともしない。
「ん〜今日は行かない」
「なんで?予定あるの?」
「そ、今日は末っ子と一緒に稲荷寿司作る約束してるから。これも買い出しなんだ、ごめんね?」
突然飛んできた矢に動揺を隠せない。
俺の勘違いでなければ、若干女性の視線が刺さる。
「あー、もういいや。智希っていっつも弟のことばっかり!…今度は絶対呑みに参加させてやるんだからっ」
「そんな怒んないでよ。遠野は俺が居なくても何だかんだ楽しめるからね。うちの弟はそうもいかないの、ほら」
『またね』と女性の肩を軽く叩く仕草なんて、本当に普段からやりなれている様で。ほんっとモテる人はいいですねっ。
だけど智にぃが上手く彼女を遠ざけてくれたお陰で、俺は一言も喋らずに済んだし…稲荷寿司も無事に作れるし。
「あ〜・・・ムカつく、けどありがと」
「ん?何が?」
「そういうとこ!」
やっぱり智にぃは智にぃだったと態と足早になる。無自覚なんて腹だたしい!
と、そういえば・・・
「(智にぃって彼女いるのかな…)」
考えてみれば見たことない、かもしれない。
「智にぃってさぁ、彼女いるの?」
「えー?」
困ったように眉尻を下げて笑うのを見るのはこれで何度目だろう。こういう時の智にぃは、
「ないしょ、」
何も欲しい答えをくれないのだ。