兄弟ですが、血の繋がりはありません!
第8章 ママ、お母さん、母さん
悠side
人は成長していく中で、誰かの呼び名を変化させて行くことがある。
例えば、幼い頃は母親のことを『ママ』と呼んでいても小学生になって『お母さん』へと変わり、思春期には『母さん』になり。
何故変わるのか。
大人へと成長するから?
恥ずかしいから?
____どちらも正解で、間違いだと俺は思う。
少なくとも、俺が母親の呼び名を変えたのは2回で。『ママ』が『母さん』になった時と、『みぃちゃん』が『澪さん』になった時。
呼び名を変えることで気持ちを引き剥がした時だ。
それは成長であり、気恥ずかしさであり。
少しの寂しさと孤独と嫌悪の香りだった。
***
物心ついた時にはもう、方来 悠だった。それ以前の苗字は今も知らないし、知りたいとも思わない。
だけどその頃の俺には『ママ』と同じくらいの存在に『みぃちゃん』が居た。
一緒に住んでいる訳ではない、だけどよく会っていて大好きな人だった。
だけど、小学生になる少し前に『みぃちゃん』は『澪さん』になった。
月に1度しか会えなくなると彼女は言った。
その時に教えられたのだ。自分の生い立ちを。
馬鹿な話だと思う。そんな小さな子にしていい話じゃない。
それでも、小さな頭で一生懸命覚えて考えて理解した。無理やりだった。知恵熱で寝込んだ記憶があった。
皮肉なことにそのお陰で、周りの同い歳の子たちより大人びていた。それに助けられたこともあった。
だけど、頭の中にはいつもそれがあって。
時々痛むのだ。呪いのようにそれは俺を離さなかった。
だから、だ。
俺は怖かった。
俺を産んだ時の『みぃちゃん』と同じくらいの歳の女の子が。意識すればするほど大きな嫌悪と恐怖になった。