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兄弟ですが、血の繋がりはありません!

第8章 ママ、お母さん、母さん


最初こそ眩しいほどのフラッシュだったものが、徐々に目が慣れて何も感じなくなる頃。

俺は泣いていた。

何故だかは分からない。ただ、零しきれない行き場の亡くなった感情が涙になっただけ。

「動いていい!喋っていい!君の好きにしていいんだ!」

「あ、あぁ"ああああァあぁああぁア"っ…!」

もうぐちゃぐちゃだった。

今まで誰にも見せて来なかった自分。

解放されたいと藻掻いていたのを必死に抑え込んでいたからなのか、心という器から少しはみ出した途端。

溢れて止まらない。

「母さんのことは、好きだし、感謝してる…っでも!澪さんのごと、思うどっ本気で甘えられなかった…っ」


「いまはっ兄ざんたぢが!いち、ばんっで、俺の世界の全部だから、悲しいがお、しでほじくないっ!」


「ごわい!ほんとは、死ぬことが怖い…っ暗いのも、いや・・・っひとりにしないで…っ」


初めて言うことばかり。
するりするりと口からいなくなる。

ぜんぶ吐き出したその時。

俺の声はガラガラで肩でしか息が出来なくて、力の入らない足から崩れ落ちた。

そんなさいご。


***


「おつかれさま。どうだった、撮影は」

「・・・何か、自分じゃないみたいだった…げほっ」

喉が痛い。お茶を流し込むと張り付いた喉がキュウっと音を出して剥がれた。

「うん、悠じゃないみたいだった。でも、本音を聞けて母親としては嬉しかったの。…いいのよ、無理に母さんと呼ばなくて」

弾かれたように母さんを見た。

「違う、違うよ。母さんはずっと俺の母さんだよ。小さい頃はママって呼んでた。小学生になってお母さんになった。今は母さん。その間、俺の母親はたった一人、母さんだけだったよ」

母さんと呼ぶことに抵抗を感じたことなどない。

そう言ったら母さんは泣いてしまった。
俺の記憶の中で母さんが泣いたのはこれで3度目だった。


涙が引くと母さんは違う顔になった。
カメラの前でキラキラと笑う。

方来ことり。

日本が誇る女優であり、

方来悠の母親である。


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