兄弟ですが、血の繋がりはありません!
第10章 ページを捲って遡る
智希side
「こちらでお待ちください」
ある昼下がり、そう言われるがまま部屋の隅にあるふかふかのソファーへと沈んでいた。
少し目を動かせば忙しく働く人たちが見え、所々に積まれた書類に『出版社っぽい』と面白味もない感想が零れ落ちただけ。
さて、何故一介の大学生である俺がこんな場所にいるかといえば。
北ヶ谷と編集者の方の中でトントン拍子で話が進み、今日初めて会うこととなったのだった。
「緊張とか久々・・・」
昔から緊張とは無縁だった俺だけど今日ばかりはそんな風にはいかないようだ。心臓が煩いくらい音を出すものだから、いつか口から飛び出てしまいそう。
「方来、智希さん?」
遠慮がちにかけられた声に肩が跳ねる。振り返ると小柄な若い女性と眼鏡をかけた男性が立っていた。
「は、はいっ初めまして、方来智希です」
慌てて立ち上がって挨拶をしたから、テーブルに膝を強打してしまった。しかし、緊張のお陰か不思議と痛みはない。
「あ、大丈夫ですよ、座ってくださいっ。あ、私、光章社絵本部門・編集の橘深月(タチバナ ミツキ)と申します!今日はよろしくお願いしますねっ」
わたわたしていたと思ったら、急にハキハキと話し出す橘さん。社会人って感じだ。
「それからこちら、作家の新井先生です。さっき方来さんの絵を見て会いたいと飛び入りで…」
そう紹介された新井さん。気のせいかな、滅茶苦茶睨まれてる…?それとも目力が凄いだけの人…?
「新井だ、よろしく頼む」
「っ方来智希です。よ、ろしくお願いします…」
一通り挨拶を交わすと、橘さんが『早速ですが』と何やら紙を広げた。
「この3枚は方来さんの絵で間違いないですか?」
ああ、どうりで見た事あると思った。俺の絵だ。
「はい。あのこれがコンテストに?」
北ヶ谷から話は聞いたものの、どの絵を使ったのかは聞いていなかったから少し意外だった。
なんでこんな、ノートに描いただけの絵なんて。
「そうです、こちら3枚が使われた絵になります。…あ〜良かった、描いた人が分かって!」
さっきまで真面目な顔をしていたのに、橘さんは本当にホッとした様子で笑う。さっきからずっと表情がコロコロ変わるものだから、見ていて飽きない。
すると橘さんは立ち上がって
「さあ、方来さん!貴方の物語を教えてください!」
俺の手を強く握った。