兄弟ですが、血の繋がりはありません!
第2章 朝だって時には戦場になる
悠side
「智にぃは、今日講義あるの?」
辛い辛いと床を転げ回っていたのに、氷砂糖を口に突っ込んだ途端大人しくなった目の前の兄貴その①。
今なんて態々、グラノーラに入っているドライ苺のみを器用に食べている。なんかムカつく。
「ないけど、大学に置きっぱの描きかけキャンバス取りに行くから、一旦大学行くよー」
"あと画材屋寄ってくる"
そう言ってまた、いつもと変わらない胡散臭い笑顔を俺に向けるのだ。それが当たり前過ぎて、日常過ぎて、時に大切なもののように感じてしまう。
「悠は…?ガッコ、行かないの?」
優しいけど、強い言葉が胸にじわじわ広がる。
智にぃの言葉は痛い。
「行かない」
今はそれしか伝えられない。
これ以上口を開いたら、何を言ってしまうか。
大好きな人を傷つける言葉が溢れてしまいそう。
「そっか・・・
じゃあ、今夜のご飯も期待しちゃおうかな」
学校に行かなくなったことで出来た時間。
大いに持て余していた俺に1冊のちょっとボロい料理本を渡して来たのは、他でもない智にぃで。
それから俺は本の中の凡百料理を作った。
何時間も煮込む豚の角煮で作った丼は、鶫くんが何杯もオカワリしてお腹がはち切れそうになっていたな。
燻製にハマった時は機械が買えないからって智にぃと燻製器から作ったっけ。
1冊の本がたくさんの思い出をくれた。
「何か食べたいもの、ある?」
「なんでも、いいよ。
悠が作るご飯は全部美味しいからね」
「また、それ?」
「だって、美味しいんだもん。美味しいもの、美味しい!って言わないでどうすんの」
また智にぃのとんでも理論。
だけどそれは俺も同意見だな。美味しいって言いながら食べるご飯は一層美味しいもんね。
「じゃあ今日は骨ごと煮込むチキンカレーにしようかな。ホロっとお肉が解れて、ルーでコーティングされたお米と一緒に食べる!」
「聞いてるだけでヨダレ垂れちゃう」
ふへへ、と智にぃは笑った。
こんな日常が、続いて欲しい。そう密かに願う。誰にも悟られないように、気づかれないように。
「さーてとっご馳走さまでした!
じゃ、着替えて大学行ってくるから帰ってきたら買い出し行こ」
「うん、」
俺は
日常は壊れるものだと知っているから。
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