未成熟の誘惑
第3章 従属
私は何を思い立ったのか、日記を燃やしてしまった。
ここ数日の目まぐるしい出来事についていけず、今何をすべきなのかも分からないのだ。
目標も決まっていないのに、日課を記していてはいつか自分を見失う。
それが単純に恐ろしかった。
端的に言うと、事件と呼べる事柄は二つ。
旦那様がお亡くなりになられたことと、屋敷の少女らの喪失である。
旦那様は自室で幼なき子供と戯れると私を追い払ったその日に、何者かに暗殺された。
頭と心臓を綺麗に撃ち抜かれ、旦那様はピクリとも動かなかった。
清々しい気分だったのだが、主人を亡くした私は、これからどうやって生きていけばいいのだろうか。
屋敷から消えた少女については、津田が確実に知っている。
この屋敷に彼女らがいると知っていたのは、私と旦那様と津田だ。
津田は旦那様の遺体を見るや、あの蛇のような笑みを浮かべ、ケタケタと笑っていた。
一通り気が済むまで笑うと、私に部下にならないかと唐突に話を切り出した。
何を言い出すのだ、この蛇は。
吐き捨てる私と共に、目標無き今の状況に不安を抱く私もいた。
消えた少女らのことも気にかかる。
何より私一人ではこの惨状に対処しきれない。
最早考える余地などなかった。
津田と握手を交わした瞬間、私は自分の体の隅まで黒くなっていく心地がした。