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時計じかけのアンブレラ

第5章 分岐点

オイラがあげた青い傘を見て、翔君は最初、ちょっと派手じゃね?と困り笑いしてた。

確かに。
アラフォーのオッサンが持つにはアレかも、と思ったらオイラも可笑しかった。

なんだけど、翔君がこの傘を大事にしてくれることを俺は知ってる。
指輪ではないけど、一生共に居ることを誓うような気持でこの傘を贈った。

病めるときも、健やかなるときも。
富めるときも、貧しきときも。
君を愛し。
敬うことを。

「キレイで目立つ色だから、これを持っててくれたら、いつどこで会ってもすぐに翔君だってわかるでしょ?
オイラと会う時の目印にしてね」

実際に口に出してはこう言ったんだけど(笑)。
ふふっ。
翔君はオイラを不思議そうな顔で見てたっけ。

翔君のラプラスをきっかけに、俺も腹を据えたんだ。
何があっても離れない、って。

青江さんを思い出しながら翔君を見てると、本当に。
なんていうかこの人が愛しくて。
大切、って言葉では足りないくらいで。

翔君が俺に向けてくれる気持ちに、一体何を返せるんだろう。
俺に出来ることがあるなら、何だってする。
そう思う。

実際に、何度か訊いてみた。
俺にして欲しいことないの?って。

そうすると翔君はいつも、傍に居てくれたらそれで良い、って。
あの、物凄く優しい顔で微笑む。

か(or)。

じゃぁ、今日は上に乗って、とか言う(笑)。

カレーが食いたい、とか。
後輩と仲良くし過ぎないで、とか(笑)。

だからずっと幸せで、充分だと思ってた。



オイラはいつも、いろんなことに気がつくのが遅い。
自分の気持ちは特に、なかなか自覚出来ないタチで。

アレルギーの元みたいに、少しずつ自分の中に溜まって来ていたものが、なんていうか、ある日突然にリミッターに触れて限界に気づく。
ああ、ダメだな、って。
このままじゃダメだな、って。

翔君のことじゃない。
自分のこと。
自分の、気持ち。

唯一人、この人だ、って決めた相手にこんなにも愛されて。
ましてや職業柄、たくさんの、たくさんの人に愛されて。
自分の望みなんか何もない、望んだらバチがあたる、って思ってたのに。

絵が描けなくなって、いつの間にか結構な時間が経ち、ふと気づいた。
このままでは義務になる、って。

『嵐』を義務で続けるなんて、そんなの、無理に決まっていた。





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