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時計じかけのアンブレラ

第6章 花火 2019

『嵐』が不自由なんじゃない。
そんなことは俺達5人共、誰も思っていない。

『ただ、自分で自分が自由じゃないんだ』

そう、この人は言った。
たどたどしく、誠実に、一生懸命言葉を選びながら。

ずっとどこにいても自分は自分だった。
大野智だった。
それがいつからか、『嵐の大野智』になる為に時間がかかるようになった、って。

毎朝仕事に行く前に、単純に心の準備を整えるだけじゃなく、今から『嵐の大野智』なんだ、って言い聞かせなくてはならなくなったと。
そうして家に帰ってからも、それが抜けないんだ、と。
どこに居ても、何をしてても抜けない。

『眠ってリセットされて朝が来る
また同じことの繰り返し
俺…多分おかしくなると思う
そうなったら…嵐が壊れる…
壊したくないんだよ
嫌なんじゃないんだ…』

最後まで納得できずに苦しんでいたメンバーと二人で飲んでいた時、智君はそう言ったらしい。

言葉の苦手なこの人が精一杯口に出したそれを、俺達はどこまで理解できているのか。
どんなに想いを寄せても相手の心全てを見通すことは出来ない。
慮るしかない。

俺達はグループが、メンバーが、あまりにも大切で…。





やめよう。
今は、考えない。





「しょおくん、手」

無言で抱きしめながら思考が渦を巻いていくのを断ち切った時、智君が言った。

「ん?何?」

「ご飯、食えないから、手ぇ抜いて」

智君の背中をさすってた筈の俺の手は、何故か彼のハーフパンツの中に入ってて、やんわり尻を撫でている。
習慣、って恐ろしい。

「……しようか」

「だめ、オイラ腹減った」

「先に性欲を満たしてからにしない?」

しれっと誘った俺を見上げると、ふふっ、て笑って。

「だめぇ」

可愛く言うと、ちゅっ、てキスをしてくれた。
まぁ、いいさ。
夜はこれからだ。

「んふっ、いただきますっ
オイラ自分で作ったカレー食べるの久しぶりっ」

スパイスの奥の方に甘みがあるカレーは美味かった。
おかわりした時に、隠し味に何を使ってると思う?って。
智君が楽しそうに言って。

答えはチョコレートで、俺は危うくおかわりじゃなく「チョコレートごはん」を食わされそうになったが、それは丁重にお断り申し上げた。







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