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時計じかけのアンブレラ

第8章 and more

京セラドーム、楽屋。
自分のソファに寝そべりながら、天井を見てた。

いつもだったらこの時間は、頭の中でセトリに沿ってイメージトレーニングしてるんだけど。

なんだけど…。

「うーむ…」

オオエさんて誰?

ま。

いいけどね。
別に気にしてないし。

智君本人に訊いたら、キョトンと可愛い顔をして『オオエさん?って誰?』って。
逆に訊き返されたくらいだし。

俺が知る限りあの人の身近にオオエさんは居ないしね。

それとも聞き違いかな。
他に似たような名前って?
ナオエさん、とか?

「うーむ…」

ま、いいんだけども。

コーヒーでも飲むか、と起き上がって座り直したら、たまたま通りかかったらしい松潤と目が合った。
ん?と笑いかけると、妙な顔をしてる。

「何さっきから唸ってんの?」

「そう?」

「もしかして腹の調子でも悪い?
薬あるよ?」

「いや、大丈夫」

あらら、本番前に心配させたか?
ナーバスな時に悪かったかな。

お。
そうだ、良いことを思いついた。

「ちょ、こっち来て」

再度笑いかけてから、手招きをした。
チラッと時計を見る。
この時間だったらルーティーンも一段落してるだろう。

「何?」

「マッサージしてあげよう」

「は?」

「誕生日だろ、今日
耳のマッサージ習ったの
誰かにやってみたいんだよ」

「…いいの?」

「結構気持ち良いよ」

ソファの座面をポンポンと叩く。

「じゃなくて、大野さんにしたら?」

言って、松潤は入口の方を振り返った。

「今スイーツ部だよ
あの人くすぐったがりだから嫌だってさ」

「あっそ(笑)
じゃあ、遠慮なく」

笑いながら俺の隣に座る。
入れ替わりに立ち上がって背後に回った。
耳に触れながら、ぐにぐに、ぷにぷにと輪郭をなぞり圧をかけていく。

「痛い?」

「いや?平気」

「ここ、痩せるツボだって」

「へぇ~」

「痩せるっていうか、食欲を抑えるツボで
食べる前に揉むと良いんだってさ」

こっちが確か目のツボで、この辺りは消化器官だって、とかウンチクを語りつつ。
頃合いを見て俺は訊いてみた。

「なぁ、オオエさん、って知ってる?」


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